商談前の企業下調べとは、相手企業の公開情報から「この会社に、何を、どの切り口で提案するか」を決めるための準備です。取引可否を審査する与信調査・信用調査とは目的が別物です。
この記事は、下調べが担当者の裁量任せになっているBtoB営業の責任者・営業企画に向けて、見るべき情報源、30分で一巡する型、要点シートへの落とし方、全商談に標準装備する方法までを示します。
初回商談が薄くなるのは、営業の話術の問題ではありません。攻め方が決まらないまま会っているからです。下調べは攻め方を決める工程です——
ここが白紙のまま商談に入ると、初回訪問が「御用聞きヒアリング」で終わり、二回目につながりません。
情報源は集めることが目的ではなく、それぞれで「何を読むか」を決めておくことが肝心です。以下の6つは、いずれも無料で当たれます。
公式サイト事業・製品・拠点・沿革でまず全体像をつかみます。読むポイントは、主力製品がどの顧客層に向くか、沿革の直近に買収・新設・移転がないか。
採用ページ・求人情報どの職種を、どの勤務地で増やしているかは、投資領域がどこかの生きた手がかりです。開発職の募集が続けば製品強化、営業職なら販路拡大、と読み替えます。
ニュース・プレスリリース直近の変化(新拠点・新製品・提携)は「なぜ今この会社か」の根拠になります。上場企業の速報は、適時開示システムTDnetでも追えます。
開示資料(EDINET)上場企業や提出義務のある企業なら、金融庁が運営する電子開示システムEDINETで有価証券報告書を無料で閲覧できます(ユーザー登録は不要)。読むポイントは「事業等のリスク」と「経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」——会社自身が言語化した課題が、そのまま提案の切り口になります。セグメント情報で稼ぎ頭の事業が、従業員の状況で組織の規模がわかります。
官公データ(gBizINFO・法人番号公表サイト)経済産業省のgBizINFOは、政府が保有する法人データを法人番号に紐付けて無料公開するサイトです。法人プロフィールには、資本金・従業員数・代表者に加え、補助金交付情報・政府調達情報・届出認定情報・表彰情報・特許情報が一括で載ります。
読むポイントは補助金交付と調達の実績——財務が非開示の非上場企業でも、直近で何に資金を得て何を納入したかが読めます。
技術発信・SNS製造業なら展示会出展や技術ブログに、現場の関心が表れます。特許情報はgBizINFOにも収載され(特許庁系のJ-PlatPatが取得元)、技術投資の方向を裏取りできます。
有価証券報告書は事業年度終了後90日以内に提出されるため、EDINETでは最新版と訂正報告書の有無を必ず確認します。訂正報告書は元の書類とは別に提出されるので、元書類だけを見ると古い数字で臨むことになります。
EDINETコードは非上場企業・投資法人・ファンドにも付与され、社名変更や合併があっても基本的に変わらないため、証券コードのない相手や提出履歴の追跡に使えます。
gBizINFOは2026年1月に更改され、キーワードを入れるだけのフリーワード検索が実装されました。法人情報はCSV等の形式でダウンロードでき、REST API(V2)でも取得できます。掲載元はEDINET・jGrants(補助金)・調達ポータル・J-PlatPat(特許)・インターネット官報など、府省庁のオープンデータです。
だらだら調べないために、1社あたりの時間を30分と決め、分単位で区切って一巡します。各枠で「使う情報源」と「書き留めること」を固定しておくと、迷いが消えます。
| 経過時間 | やること | 主に使う情報源 | 書き留めること |
|---|---|---|---|
| 0〜5分 | 事業・主力製品・顧客層をつかむ | 公式サイト(事業/製品/沿革) | 何を、誰に売る会社か |
| 5〜10分 | 規模と体制を裏取りする | gBizINFO(資本金・従業員数・代表者)、法人番号公表サイト | 規模・拠点・代表者 |
| 10〜16分 | 投資領域のシグナルを拾う | 採用ページ(増やす職種)、gBizINFO(補助金交付・調達・届出認定) | どこに人と資金を割いているか |
| 16〜22分 | 直近の変化をつかむ | プレスリリース、EDINETの臨時報告書 | 新拠点・新製品・提携・役員の異動 |
| 22〜27分 | 課題の構造を確かめる(提出義務企業のみ) | EDINET有価証券報告書の「事業等のリスク」「対処すべき課題」 | 会社自身が挙げる課題 |
| 27〜30分 | 仮説と質問に変換する | ここまでのメモ | 効きそうな課題の仮説/商談で確かめる質問 |
肝心なのは最後の枠です。事実を集めるだけの下調べは、商談の場で使えません。「自社が効きそうな課題の仮説」と「商談で確かめる質問」に変換して初めて、攻め方が決まります。
製造業を調べるときは、上の型に技術面の枠を足します。有価証券報告書があれば「研究開発活動」と「設備の状況」で技術投資と生産能力の方向を、gBizINFOの特許情報と表彰情報で技術の強みを裏取りします。
展示会の出展履歴と技術ブログは、現場が今どのテーマに関心を寄せているかの一次情報です。補助金交付情報でものづくり系の採択が見えれば、直近の設備投資や新ラインの仮説につながります。
集めた事実は、商談前に一枚の要点シートへ落とすと使えます。項目は次の6つに固定します。
型があっても、人手の下調べは「時間のある商談だけ」「得意な担当だけ」になりがちです。AIエージェントに型を渡せば、6項目の情報収集と下書きを全商談・毎回・同じ基準で用意し、出典つきで営業に渡せます。人の仕事は、下書きの検品と、課題の仮説を自分の言葉に磨き直すことに変わります。事実集めをAIに、判断を人に——この分担なら、下調べの標準装備は現実的です。
商談の数が少なく、大型案件中心なら、担当者が型に沿って自力で調べるのが最善です。商談数が多い、または展示会後のように一時に大量のフォローが要る場合は、外に出す価値があります。
あたる先と攻め方が決まってから会う——それだけで商談の歩留まりは変わります。
企業調査を外部レポートで賄う場合の費用感は営業リスト作成・企業調査の費用まとめにまとめています。ゴムマリでは、取引先の企業情報を公開情報から出典つきで補う整備をデータエンリッチメントとして成果物単位で提供しています(補う項目は貴社と決めます)。
まず、直近の商談3件について「自社が効きそうな課題の仮説」が事前に書けていたかを振り返ってください。書けていなければ、型から整える価値があります。下調べの標準装備を任せる場合は、相談から商談数と現状の準備方法を教えてください。
関連記事: 展示会の名刺の山を、商談準備済みのリストに変える/データエンリッチメントとは/「次にどこへ行くべきか」を受注実績から導く
ワークスアプリケーションズで大手企業向けERPの営業と導入を担当し、外資系SaaS企業と国内大手放送局で販路と新規事業の立ち上げ、AI学習用データを扱うAIスタートアップ2社でマーケティングと営業を担った。2024年10月から生成AIの実装に入り、いまは大手企業の現場で、AIエージェントを要件定義から運用まで手がけている。
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FAQ
与信は「取引してよいか」の審査で、財務・支払い能力が中心です。商談前下調べは「どう提案するか」の準備で、事業・組織・変化が中心です。目的が違うため、見る情報も成果物も別物です。
かけた時間ではなく、仮説と質問に変換できたかで決まります。型の最後の枠が書けていれば、収集にかける時間は絞れます。
有価証券報告書がなくても、gBizINFOで資本金・従業員数・代表者に加え、補助金交付・政府調達・届出認定・表彰の実績が無料で引けます。開示義務がない企業でも、官公データで規模と直近の動きの手がかりは取れます。
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1リストからで、件数の下限はありません。まず直近の展示会名刺や休眠リストなど、対象が明確な1件で試すのが確実です。