顧客データの名寄せは、会社名の文字照合でやろうとすると破綻します。正解は、13桁の法人番号をキーにすることです。法人番号は1法人に1つ、登記が続く限り不変で、国税庁の公表データと無料で全件照合できます。この記事は、CRM・販売管理・名刺データの統合に悩む営業企画・情シス担当に向けて、法人番号名寄せの手順・正規化のルール・突合の三段構え・商号変更や合併の追跡までを、実務の順に解説します。
第一に表記ゆれ。「株式会社」の前後・全半角・旧字体・略称で、同じ会社が別レコードになります。第二に同名他社。まったく別の会社が同名で実在し、名前一致で統合すると別会社を混ぜる事故になります。第三に変化。移転や商号変更が起きると、名前と住所のどちらで照合しても追跡が切れます。ルールベースの文字照合を精緻にしても、この3つは原理的に残ります。
法人番号は国税庁が全法人に付番する13桁の識別子で、商号や所在地が変わっても番号は変わりません。そして法人番号公表サイトから全法人分(約580万法人)の商号・所在地・番号を無料で取得できるため、「手元のリストに番号を付ける」作業自体を公表データとの突合で進められます。名前は変わる、番号は変わらない——だからキーは番号です。
公表データには基本3情報(商号又は名称・所在地・法人番号)に加えて、名寄せに直接使える付随項目が付きます。商号のフリガナ(Web-API Ver.3.0・2018年4月から提供)、都道府県コード・市区町村コード、変更の履歴を表す処理区分などです。国税庁のリソース定義書は、都道府県コード・市区町村コードについて「データを取り込み、名寄せ作業や不要なデータを識別する際、当該コードを活用することにより、効率的な作業を行うことができる」と明記しています。付随項目の全体像は法人番号公表サイトの全件データ活用にまとめています。
社名の表記を機械が比較できる形に揃えます。ここはルールで書ける工程です。主な揺れと寄せ方は次のとおりです。
| 揺れの種類 | 例 | 正規化の方針 |
|---|---|---|
| 法人格の表記 | 株式会社/(株)/㈱/前株・後株 | 法人格を切り離し、社名本体だけで一次照合する |
| 全角・半角 | ABC商事/ABC商事、123/123 | 英数字は半角、カタカナは全角へ統一する |
| 旧字体・異体字 | 髙・﨑・德 などの字体差 | 常用字体へ寄せる(外字が絡む場合は後述の限界に当たる) |
| 空白・記号 | 中黒(・)・スペース・ハイフンの有無 | 削除して比較キーを作る |
| 読み | ふりがなの有無 | 公表データのフリガナ(全角カタカナと長音のみ)を補助キーに使う |
正規化した社名で公表データと照合し、候補を出します。ここは一発勝負ではなく三段構えにします。第一段は、正規化した社名での完全一致。第二段は、社名だけで候補が複数残るとき、公表データに付いている都道府県コード(JIS X 0401準拠)・市区町村コード(JIS X 0402準拠)で所在地を機械照合して絞ります。第三段は、それでも決まらないものの目視です。段を分けることで、機械で決まるものと人が見るべきものを最初から仕分けできます。
候補が1つに定まればその番号を付与します。同名複数のときは所在地で判定し、決めきれないものは「未確定」として残します(誤った統合よりも空欄が正しい)。
番号が付いたレコード同士で重複を統合します。以後の突合・肉付け・鮮度管理はすべて番号キーで回ります。受注・引合データを全件突合して判断材料に変えた実例は営業データ診断の実例に公開しています。
一般論の注意ではなく、公表データの仕様上、実際に突合が滑る箇所を挙げます。
外字と長い社名。公表データの商号又は名称は最大150文字で、JIS第1・第2水準以外の文字(外字)や150文字を超える部分は本体データに入らず、イメージファイルの参照になります。外字を含む社名は、単純な文字照合では一致しないことがあります。
住所での二次照合が効かない法人。公表データには検索対象除外という区分があり(Web-API Ver.4.0・2019年3月から提供)、登記上の所在地が住居表示の実施や区画整理で廃止され、現存しない住所表記になっている法人が除外対象になっています。この場合、所在地を使った第二段の絞り込みが当てになりません。
郵便番号を信用しすぎない。公表データの郵便番号は全国町・字ファイルを基に設定されており、所在地に外字や誤字脱字があると正確な郵便番号が入らないことがあります。郵便番号は補助にとどめ、突合キーの主軸にはしません。
大量突合はダウンロードで回す。Web-APIは1リクエストで法人番号を最大10件、取得期間は最大50日までで、応答データが2,000件を超えると分割提供されます。全件データはAPIでは取得できません。数万件を一気に突合するなら、全件ダウンロードファイル(月末時点の最新情報)を手元に持って回すのが実務的です。
名前が変わっても番号が不変なら、変化そのものを公表データで追跡できます。公表データの各履歴には処理区分が付き、01は新規指定、11は商号又は名称の変更、12は国内所在地の変更、21は登記記録の閉鎖等を表します。変更年月日も入るため、いつ社名や所在地が変わったかを時系列で並べられます。
合併の追跡はこの仕組みが効きます。合併で消滅した法人側には登記記録の閉鎖等(処理区分21)が立ち、閉鎖の事由に「合併による解散等」が入り、承継先法人番号に存続法人の13桁が入ります。これを使えば、旧法人のレコードを存続法人の番号へ機械的に付け替えられます。
履歴の訂正にも印が付きます。公表済みデータに誤りがあって訂正されると訂正区分が「1」になり、その法人の全履歴データが提供し直されます。自社の名寄せ結果も、訂正が出た法人だけ取り直せば追随できます。こうした変更は差分データとして日次で配信されており(16時頃・休日祝日と12月29日から1月3日を除く・過去40日分を提供)、名寄せを一度きりで終わらせず日次で追い続けられます。
個人事業主(法人番号の対象外)・屋号だけの取引先・海外法人・同一法人内の支店や事業所は、この方法では一意になりません。支店単位の管理が必要なら、法人番号+自社採番の補助キーという二段構えにします。ここの設計を最初に決めておくと、あとで壊れません。
正規化と完全一致の突合までは表計算とルールで書けます。壁は「判断込みの照合」です——旧社名と新社名、略称と正式名、所在地の微妙な表記差。従来は人が目で見て決めていた部分ですが、いまはAIエージェントが基準を決めて全件に同じ判断を当てられる領域です。進め方の一般論は名寄せ・整形の実務に、外注する場合の費用感は業務の外注相場まとめにまとめています。
何件からAIや外注を検討すべきですか?
件数より質で決まります。完全一致で消える重複だけなら自力で足ります。判断込みの照合が数百件を超えて残るなら、人手の目視は物量的に破綻します。
法人番号の取得に費用はかかりますか?
かかりません。公表データのダウンロードも突合も無料で、Web-APIを使う場合のアプリケーションID発行も無料です。ただしアプリケーションIDの発行には2週間から1か月程度かかるため、API連携で回すなら早めに申請します。
合併や商号変更で消えた取引先はどう扱えばいいですか?
商号変更は番号が不変なので、番号キーなら自動で追随します。合併で消滅した法人は、公表データの承継先法人番号に存続法人の番号が入っているため、旧レコードを存続法人へ付け替えます。閉鎖済みのレコードは消さず、閉鎖のフラグを立てて残すと履歴がつながります。
フリガナや住所での照合はどこまで信用できますか?
フリガナは表記ゆれに強い補助キーですが、公表データのフリガナは登録がない法人ではブランクになるため、単独キーにはできません。住所は、検索対象除外の法人や郵便番号が正確に入らない法人があるため、社名一致を主、所在地を絞り込みの副に置くのが安全です。
名寄せの結果はどう検証すればいいですか?
統合したレコードの抜き取り確認と、「未確定」を残す規律の2つです。無理に100%を埋めた名寄せは、別会社の混入という一番高くつく事故を生みます。
まず顧客リストから10社を抜き出し、法人番号公表サイトで検索してみてください。何社がすんなり一意に決まり、何社が判断込みになるか——その比率が、自力でいけるかの判断材料です。名寄せ・重複統合を成果物単位で任せたい場合はデータ整理・名寄せを提供しています。相談から、リストの件数と現状を教えてください。
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国産大手ERPベンダーで新卒からERPのエンタープライズ営業・プリセールス・導入コンサル、外資系SaaSでパートナーセールス部門の立ち上げ、国内大手放送局で新規事業開発(通販カタログ事業)、AIスタートアップ2社でビジネスサイドの要職を歴任。2024年10月から生成AIを自ら実装し、2025年にゴムマリ株式会社を設立。
現在は自らAIエージェントを実装するFDE。評価セット設計・専門家監修・Go/No-Go判定、CRM・会計・社内DBとの統合、減った時間の実測まで一貫します。要件から、運用まで——AIエージェントが、現場で成果を出す仕組みを。