課題
数字そのものは、基幹システムに正確に溜まっていました。問題はその先です。システムの出力をExcelに貼り、人手で並べ替え、前の期間と突き合わせ、増減の理由を書き添える。この工程が3種類の資料(品目ごとの原価差の比較シート、滞留在庫の調査表、連結業績のブレ要因)でそれぞれ定期的に回っていました(数値はいずれも概数です)。
作れる人が限られること以上に厄介だったのは、途中の1行がずれても合計は合ってしまう点です。合計の検算を通しても、個別の行が誤って表示されている状態は残ります。人手の作業には、こうした「合計では発見できない型」の揺れが混ざります。
やったこと
1. 人手の完成品を仕様書として、並べ方のルールを逆算する
要件を聞き取って設計するのではなく、担当者が作った完成品そのものを正解データとして扱い、並べ方のルールを実測で導出しました。突合キーの組み合わせ、代替品どうしをペアにする規則、行の並び順、そして「差がゼロでない行だけが降順に並んでいる」こと。最後の1本は仕様ではなく、担当者が表計算のフィルタ機能を使った作業の痕跡でした。これを入れるかどうかで、一致率は98.31%と100%に分かれました。
2. 人手を経た後のExcelではなく、生の出力を入口にする
当初は貼り付け済みのExcelを入口にしていましたが、基幹システムの生出力そのものを入口に切り替えました。切り替えの前に、生出力と人手の明細を約9.8万セルで突合し、セル単位の不一致は1件(人手で補われた単価)だけであることを確認しています。明細が生出力の転記そのものだと実測できたので、貼り付け工程を前提から外せました。
3. 結論を知らない別の担当が、ゼロから照合する
作った側とは別の担当が、結論を知らない状態で全量を独立に照合しました。監査はこちらの主張を1本棄却しています(ペアのずれを12件と報告していたが、厳密には10件)。残る差はすべて分類され、原因不明はゼロです。同時に、人手側の揺れも3件見つかりました。うち1件が、合計は正しいまま個別の行だけが誤って表示される、前述の型です。
4. 「今のやり方の再現」を目的から外す
再現は、こちらの理解が正しいことを示す診断としては有効です。ただし目的化すると、作業の痕跡まで律儀に作り込むことになります。途中で指標を「人手の再現度」から「業務の目的にどれだけ効くか」へ切り替えました。増減理由の下書きは、金額ベースで84.6%をカバー。設定を凍結したまま別の月に当てたホールドアウトでも87.8%で、後から当てはめた結果ではないことを確認しています。
難しかったこと
正解に置いた人手の完成品が、1枚ごとに作り方が違う。 同じ様式の資料でも、元データを取った時点がシートによって違い、並べ替えをしているシートとそうでないシートが混ざっていました。揃っていない正解に1本のルールを当てると、機械の誤りと元の揺れの区別が付きません。差はすべて分類し、原因が説明できない差をゼロにするまで詰めました。
一致率は、測り方を決めた側が上げられる。 人手の並び順に合わせて設定を選べば、数字は上がります。それは実力ではなく、後から合わせた結果です。独立監査の推奨に従い、並び順に依存しない内容ベースの数字を主指標に置き、何をどう数えたかの定義ごと報告しました。
値が合うかに集中して、毎月だれがどこで動かすかを後回しにしていた。 生成の仕組みが当社の手元にある限り、毎月当社が動かす形になります。値の一致だけを完了条件にしていたことに気づき、顧客側で同じものが出せる場所に置くところまでを、完了の条件に入れ直しました。
納品物
3種類の生成エンジン(それぞれ単体で動くスクリプト)、生成した資料一式、測り方の定義を開示した検証結果の文書、そして増減要因と連結のブレの候補を金額の大きい順に並べたデータベースの試作環境です。
結果
比較シートは、抜粋分で約1,200行・約6.6万セルが人手の完成品と完全一致しました。全量では、並び順に依存しない内容ベースで99.46%です。滞留在庫の調査表は3ヶ月分・約12万セルで99.99%、再現できない入力は3つだけと特定しました。連結の要因分解は、経営層向けの説明資料に転記された約30の数値と1円未満で一致し、あわせて資料とデータの食い違いを4件検出しています。
価値の置き所は、この検証の途中で変わりました。当初の狙いは「増減の原因を自動で特定する」でしたが、実測でわかったのは、人が挙げた39の論点のうち17はデータに該当する列そのものが無く、自動では出しようがないということです。代わりに機械が確実にできるのは、候補を金額の大きい順に絞り込むことと、資料とデータの食い違いをその場で出すことでした。
その後
検証結果は測り方の定義つきで報告済みで、候補の一覧はデータベース上で実際に触れる状態にしています。月次の運用の形を決める段階です。定期資料の自動化で先に決めるべきことは毎月のレポート作成を「確認するだけ」にするに整理しています。
同じ型が効く業務
毎月、人が表計算で作り直している資料があれば、この案件と同じ型が使えます。月次の予実、在庫や販売の集計、経営会議に出す説明資料、部門別の数字の突き合わせなど、数字自体はシステムにあるのに、その先の並べ替えと注記が人手に残っている業務です。
この案件で効いたのは、要件を聞き取って設計するのではなく、人手の完成品を仕様書として扱ったことです。完成品があれば、正しさを一致という形で測れます。当社の経験では、測り方の定義を先に決めておくほうが、後の議論が短く済みます。
