課題
全社で業務を大きく減らす——経営はそう号令を掛けたものの、「どの部署の、どの業務に、どれだけ時間が溶けているか」が定量化されていませんでした。基幹・営業・人事給与など個別最適のシステムが並立し、データも業務も分断。ツールを入れても「自分の仕事がどう楽になるか」に翻訳されず、現場に定着しない——典型的な大企業の壁です。
やったこと
外部の助言者としてではなく、現場の一員として各事業部に入り込み、業務棚卸しのワークショップとヒアリングを横断的に実施。重厚な新システムを足すのではなく、Notionを全社の管制塔に据え、100件超の改善テーマをステータス・部署・規模で可視化しました。各部署の棚卸し直後に「すぐ効く改善(クイックウィン)」を起票・実装しながら、基幹連携やAIエージェントといった腰の据わったテーマを並行。専門領域は最適なパートナーを束ね、全体の交通整理は当社がハブとして担いました。これらをAIネイティブな進め方で、ごく少人数で回しています。
難しかったこと
部署ごとに、業務の言葉と粒度が違う。 同じ「受注登録」でも、部署によって指す作業も、所要時間の数え方も違いました。棚卸しの結果をそのまま並べても比較できません。施策を「動詞で書ける1つの作業」の粒度に揃え直し、完了を二値で判定できる形にしてから台帳に載せました。
削減効果は、厳密に測ろうとすると棚卸しが止まる。 削減時間は担当者の自己申告に頼らざるを得ず、施策1件ごとに厳密な計測を求めると、現場の記録負荷が増えて改善そのものが止まります。厳密さより経営への説明可能性を優先し、部署単位の粒度で、幅を持って保守的に出す方式に切り替えました。
作っただけでは使われない。 クイックウィンは、構築が終わり機械検証も通った状態でも、初めて画面を開く担当者の目で見ると「どこから始めるか」で詰まりました。以後は、構築→利用者目線の独立レビュー→案内→試用の順を固定し、案内の文書は実物が整ってから書くようにしています。
納品物
全社横断の業務棚卸しと課題の構造化、削減ポテンシャルの試算、改善テーマのポートフォリオ、そして経営への成果報告の枠組み(「AIで何が新しくできるようになったか」と「削減の累計」を併せて示す月次レポート)。数字の足し算ではなく、業務変革の進捗として経営と合意できる形にしています。
その後
可視化した改善テーマを、効く順に業務のエージェント化・仕組み化へ接続中。現場で繰り返し効いた型は、横展開できるパッケージへと育てています。
同じ型が効く業務
「削減の号令はあるのに、どの業務に時間が溶けているかの数字がない」状態は、製造業に限りません。複数の事業部を持つ企業の間接部門、拠点ごとに手順が違う物流や小売、システムが並立して久しい中堅企業のバックオフィスに、同じ進め方が効きます。
要点は、最初から全社システムを描かないことです。部署単位で棚卸しをして、すぐ効く改善を先に入れ、効いた型だけを横に広げる。この案件では、その順で回したほうが、要件定義に時間を使うより早く成果につながりました。
